新規就農者

[未来人材プラス]農業×居酒屋 二刀流 持続可能な地域づくり 米の可能性 無限大に 広島県世羅町 西英貴さん(40)

 広島県世羅町の西英貴さん(40)は、米作りの傍ら米粉の料理を提供する居酒屋の経営や、米粉を使った菓子の製造・販売などを手掛ける。米の可能性を広げ、その魅力を伝えながら、持続可能な農業と地域農業づくりを目指す。

 実家は米作りを中心とした兼業農家。父の三秋さん(71)から「農業をしろ」とは一度も言われなかった。地元大学を卒業。金属製品や印刷機器などを製造・販売する大手企業に就職した。契約書の審査など企業法務に関する仕事を担当した。

 転機は2008年。三秋さんの交通事故を機に草刈りなどの農作業を休日に手伝うようになった。休憩中、田を見て不安がよぎった。「自分が亡くなった後、この土地はどうなっていくのか」

 同町は標高が高く、昼夜の寒暖差が大きいため甘味が強く粘りのある米が育つ。「良い農作物がいつまでも取れる仕組みをつくりたい」と就農を決意。10年に退社した。

 ジャガイモやニンジンなどを栽培し、農業を学び1年後に会社を立ち上げた。現在、「コシヒカリ」を町内の5ヘクタールで栽培し、生活雑貨店や広島空港の近くで販売する。

 米粉加工は11年、ニュース番組で小型の製粉機を見つけ、ぴんときた。迷うことなく製粉機を購入。精米だけでは販路が限られるが、栄養豊富でグルテンフリー、幅広い料理に使える米粉の可能性は大きいと信じて自社生産を始めた。

 米粉の良さのPRにも力を入れる。12年に居酒屋を開業。米粉を使った揚げ物やパスタなどを中心に提供する。21年10月には、広島市の百貨店で世羅町産の玄米粉と卵を使った焼き菓子「米結(こめゆい)」を限定販売。米の形をしたデザインや玄米粉の使用などが女性客に大好評だった。

 農業への思いが強い英貴さん。「作っているだけでは駄目。食べている人の顔を思い浮かべ、いい米を作りたい」と、農業への決意を語る。