新規就農者

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[未来人材プラス]無添加“グミ”開発 子連れ専用の農園も 農業で育児支えたい 和歌山県かつらぎ町 猪原有紀子さん(35)

 「7年6カ月。母親が生涯で子どもと一緒に過ごせる時間とされ、父親はその半分しかないという。かけがえのない時間にまた怒ってしまったと罪悪感を持つママ、パパを農業で救いたい」。和歌山県かつらぎ町の猪原有紀子さん(35)は、グミキャンディーのような食感のドライフルーツ開発や、子連れ専用の観光農園の開設で育児ストレスの解消に情熱を注ぐ。

 大阪府吹田市出身。ウェブ広告代理店でキャリアを積んだが、出産を機に生活が一変した。常に子育てと仕事に追われ、子どもに怒っては落ち込み、産後うつにも苦しんだ。働き方に限界も感じる中、かつらぎ町の景色に一目ぼれした夫が移住を提案。子どもたちがチョウを追い掛けてはしゃぐ姿に「ここなら豊かな生活ができる」と確信し2018年、大阪市から移り住んだ。

 「子どもが自然に触れる場をつくりたい」と農業への関心も湧いた。未経験だったため、マニュアルに沿い栽培できる養液栽培に着目。ブルーベリー300本、冬場の収入として原木シイタケ2000本も栽培する。

 「自分が欲しかった物を作ればいい」。移住を通してやりたいことが明確になった。町内外の農家から規格外果実を買い取り、グミの食感のような無添加のドライフルーツを20年に開発。着色料などが入ったグミが食べたいと言う息子に、罪悪感を感じながらあげていた経験からだ。来年1月には観光農園もオープンさせる予定。親が周囲に気を使わずくつろげるよう子連れ限定とし、暴れても叫んでも叱らなくていいようにする。

 グミのような食感のドライフルーツは約600人の定期購入会員を抱え、観光農園のクラウドファンディングでは700人以上から支援を受けるなど、子育て世代の共感を集める。「7年6カ月の子どもの記憶を親の笑顔で埋めたい。それができれば最期に幸せな人生だったと思える」