農家レストランの夢も実現!
「食べ手に近い農家でありたい」

高橋佳奈さん/みのり農園
農園所在地:滋賀県高島市
就農年数:8年目

農業の奥深さを知る

都心で働く女性が、“食べ手に近い農家”を目指してUターン就農をした。
現在は少量多品目の野菜を栽培しながら、週末は夫婦で農家レストランを営み、最近では畑から動画配信をおこなうなど、とても充実した日々を送っている。高橋佳奈さんは何故ここまで自分らしく、楽しそうに農業ができているのか。その秘訣を探る。

 

高橋さんと農業との出会いは突然やってきた。
もともとはベンチャーキャピタルで働き、社会貢献や環境関連の事業に融資をする法人に転職。融資担当をしていた高橋さんだが、新設される農業部門へ異動することになったのだ。立ち上げメンバーに選出され、有機農業を実践して会社系列の飲食店に卸すまでの全てを任されることになったのだ。

 

農地は千葉県木更津市にある牧場跡地だった。高橋さん達は土作りをしながら、販売先となる飲食店オーナーとミーティングをおこない、どんな形でどんな味の野菜が欲しいか、どんな料理に使うのか等をヒアリングし、作付け計画を立てた。
料理人が好む野菜の種類を反映していくために、少量だが多くの種類の野菜を育てて供給した。

 

農家に有機農業の栽培方法も聞きにいった。高橋さんは、そこで初めて有機野菜を食べさせてもらった。
「こんなにおいしい野菜があるのか!と思いましたね。同じ野菜でも、品種、育て方、土の違いによってこんなにも味が変わるものかと思い、農業って奥深くて面白い仕事なんだなあと思ったんです」

 

農業という仕事に手応えを感じ始めた頃、未曽有の災害が起こった。東日本大震災だ。
漠然とした不安があった中、自分に今何ができるんだろうと考えた時、真っ先に思い浮かんだのが美味しい野菜を届ける農業だったという。いつかは農業がしたいという話を夫としていたこともあり、高橋さんの地元である滋賀県で独立就農することを決意した。

 

土地が違うと育たない模索の期間

まずは土地探しに奔走した。高橋さんの実家がある滋賀県大津市近郊内は、水田には適しているが畑作には向かない粘土質の土地のために苦労した。しかし、親戚が野菜作りに適している黒ボク土の畑を紹介してくれた。

 

1年目は試験的に色々な種類の野菜を育ててみることにしたが、前職で栽培経験のある野菜を植えても、気候が異なるためうまく育たない。
「栽培は問題ないだろうと思っていたのですが、思うようにいかず焦りました。2年間は作付けスケジュールが固まず、模索状態でしたね」
前職同様、料理人のニーズに応えて色んな野菜をオーダーメードで作るという農業スタイルにすることは決めていた。先輩農家に播種時期のアドバイスを聞きながら試行錯誤し、畑との相性がいい作物を把握しつつ、栽培スケジュールを決めていった。

 

2年目に入り、ようやく栽培が軌道に乗ってくると、レストランへの営業や飲食店向けの展示会に参加した。ただ高橋さんは、取り引きしくれる相手なら誰でも契約するわけではなかった。
「一度畑に来てもらうようにしました。栽培方法や野菜の味を知ってもらいながら、私も相手のことを知る。その上で契約を決めています」

 

一つひとつの過程を考え、大切に行動してきた結果、就農3年目には生産が安定し、取引先は想像以上に増えていた。

 

消費者に近い農家でありたい

軌道に乗るまでには苦労もあったが素敵な出会いもあった。近隣の農家、通学した週末農業スクールや、農林水産省「農業女子プロジェクト」で出会った農家仲間たちだ。
「分からないことがあったらすぐに聞ける知り合いが本当に増えました。スクールの先生や同級生、そして全国の農業女子プロジェクトのメンバーは今でも仲間であり、良き相談相手です」

実は高橋さんには農園を始める際に目標にしていたことがあった。元料理人の夫と共に、農家レストランをオープンさせることだ。

 

「青年等就農資金」を使い、2017年に週末だけの農家レストランを開業した。お客さんに自分の畑を見てもらいたいと、畑から車で2分の距離にある古民家を改装した。レストランで提供するのは採れたばかりの季節の野菜だ。お客さんから直接感想を聞けることで、農家としてのモチベーションにもつながっている。

一見、やりたい事を自由にやっているように見える高橋さんだが、ここまで夢を形にできているのは何故なのだろう。
彼女の話を聞いていると、その答えは「経営に対する意識の高さ」にあると感じた。
「農業だって立派なビジネスです。始める前に、自分たちはどんな農業をしたいのかを決め、経営計画を立て、情報収集や勉強をし、販売先からヒアリングした内容は“大事な需要”として栽培に生かす。こうした小さな積み重ねが大事なのだと思います」

 

高橋さんには、作り手と食べ手の距離が近くなる農業という軸があり、取り組みも全てこのテーマに沿っている。これからも、軸をぶらさず、できる事を模索していくという高橋さん。今後の活躍が楽しみだ。