バンドマンが挑む、共選&個人出荷のハイブリット経営。
自分らしい農業の実現を目指して

川畑恒さん/ KAWABATA FARM
農園所在地:岐阜県海津市
就農年数:4年目
生産:大玉トマト、季節野菜、青パパイヤ、ミニトマトなど

バンドマンから企業へ転職、その後、
ゼロからモノを生み出す仕事につきたいと農業へ

川畑恒さんが岐阜県でトマトの生産を始めたのは2017年のことだ。埼玉県出身、大学卒業後はいったん機械設計の仕事に就いたものの、高校から続けていた音楽活動を続けたいとの思いから退職。23歳から30歳まではドラマーとしてバンド活動に勤しんだ。

そんな川畑さんが再就職して、企業勤めるようになったのはちょうど結婚して第一子が誕生した頃だった。働こうと決めたものの、会社員生活はどうも性に合わない……。やりがいを見出せず、会社員としての将来にも不安を感じていた時に出会ったのが、農業だった。

「妻の両親が新潟県で花の栽培をしている農家で、夏休みによく手伝いに行っていたんです。そこでゼロからすべて自分の手で作り出す仕事っていいなと感じ、農業に興味を持つようになりました。農家の仕事は定年もなく、会社員のように分業制でもない。すべて自分で舵取りができます。その分責任も重く、植物相手の難しさはありますが、頑張った分だけきちんと自分に見返りがある。そこが自分にとっては大きな魅力でした」

最初は文字通り手探りで情報収集をした。どうすれば農家になれるのか、農家に将来性はあるのかを、インターネットで調べたり、東京の直売所やマルシェなどで直接農家の人に声をかけて話を聞いたりもした。そのうち、「新規就農であれば生命力の強いトマトがおすすめ」との情報にインターネットからたどり着き、トマト農家を目指すことを決めた。

「トマトは大好きだったので、やってみたいと思いましたね。ただ当時は、どこにも就農に関する詳しい情報がなくて、とにかく情報収集に苦労をしました。直接農家の方に話を聞くんですが、苦労話はたくさん聞けるものの(笑)、どこに行けば就農への足掛かりができるかなどの情報はあまり得られず。岐阜の研修所を探し出すまでが大変だった記憶があります」

実は川畑さんは、岐阜県就農支援センターで研修説明会を受けるまで、岐阜に足を踏み入れたことがなかったのだという。縁もゆかりもない岐阜県で就農を決めたのは、まず第1に就農支援センターでトマト生産研修が実施されていたからだ。

当時、トマト作りを教えている研修所は、日本中を探しても北海道、九州、岐阜にしか見つからなかった。とりあえず一番近い岐阜に行っていみようと説明会に参加し、川畑さんはすぐに「ここにしよう!」と決めたという。

「まず第一に、環境がとてもよかったんです。岐阜県の平野部に研修所があるんですが、都会のようにごみごみしていなくて、自然がとても豊かで本当に気持ちよくて。ああ、ここで挑戦したいなと自然にそう思いました」

岐阜県は東京から近いということもあり、すぐに家族で移住する準備を始めた。心機一転の生活に、妻はとても前向きに賛成してくれたという。ただ、実の両親の説得は大変だった。農業とは縁のない川畑さんの両親は、「食べていけるのか」ととても心配をしていた。

「研修所の説明会で農業経営のモデルケースなども見せてくれるので、その金額などを見せて、将来性については説明しました。半ば強引に納得してもらった感はありますが、自分で決めたことだから、必ず成功させるからと言って移住を決行しました」

研修を経て、いよいよ就農するも、
初期投資で借金は約5000万円に。ここからが勝負

就農支援センターで1年2カ月にわたる研修を受け、2017年7月からいよいよ川畑さんはKAWABATA FARMをスタートさせた。

借り入れた25aの土地にビニールハウスを建て、養液栽培で大玉トマトを栽培。換気や温度管理、CO₂管理や肥料を混ぜた養液の潅水などはIT制御し、妻と一緒に生産にあたった。研修所の規定もあり、販売先は農協の共選出荷1本だ。

多くの人が苦労する農地獲得においては、支援センターが候補地をいくつか用意してくれたこともありスムーズに進んだという。
「研修は座学もありますが、実習に多くの時間を割いていて、とても勉強になりました。経営計画の立て方や補助金申請方法など手厚くサポートしてくれたので、ありがたかったですね。実習では現在行っている養液栽培について詳しく学び、さらに卒業生の活躍も実際に見ることができたので、自分もこうなりたいという意欲がわいてきました」

しかし実際、初期投資に多大なコストがかかるという現実に直面すると、不安もわいてきたという。

ハウス建設や設備投資で6000万以上の借り入れが必要になり、それについては県から1/3の補助金を得ることができた。しかし、その他にも運転資金などがかかった。現在も総額5000万円ほどの借り入れが残っているため、ここからが勝負だと川畑さんは語る。

「ビニールハウスなどの設備投資の額面を見ると最初はどうしても不安になりました。ただ、県や国からの補助もあり、それを含めて経営計画を立てると、がんばれば何とかなるな、と感じたんです」

「やるしかない」そんな思いでスタートしたKAWABATA FARM。読み通り、就農1年目は2000万円の売り上げとなり滑り出しは上々だった。しかしそこからコロナ禍などが重なり、収量は増加しているものの単価がなかなか上がらず、現在は苦戦を強いられているという。

また、最新型のハウス栽培だからこその苦難もあった。台風の影響で停電が起こり、すべての制御システムがストップしてしまったのだ。

「夜中に地域一帯が停電になってしまい、本当に驚きました。業者さんに連絡をするものの夜中でなかなか電話がつながらず。つながってほっとしたのもつかの間、大規模に被害が出ているのですぐには復旧できないと言われてしまい頭を抱えましたね。幸いにも次の日の正午には電気が回復し、なんとか事なきを得ましたが、これをきっかけに周辺の農家みんなで自家発電を導入するなどの対策をとるべきではないか、と議論をしています。やはり、自然災害は予測がつかず怖いですね。ハウスが壊れないかと台風の度にヒヤヒヤしています」

トマトは生命力が強いとは聞いていたが、やはり植物なので繊細なことには変わりがない。環境制御が上手くいかず、いったん調子を崩すと、なかなか順調な状態には戻らないのだという。

「やはり生き物なので、管理はとても大変です。そこが農業の厳しさであり、また面白さでもあると痛感しました」

共選出荷と個人出荷で感じた農家の醍醐味。
YouTube配信も行い、実力ともに憧れられる農家を目指す

さまざまな経験を経て、今年はいよいよ就農4年目になる川畑さん。
今年はまた新たな目標も立ているのだと、意欲をわかせている。

「就農2年目くらいから、妻が畑を使った露地栽培でいろんな野菜を作りはじめ、それがとても順調に売上を伸ばしています。珍しい野菜を作ってみたいと美容効果の高い青パパイヤを作り始めたのですが、この評判がよく、さらに栽培量を増やしていきたいと思っています」

今期はトマトを作るビニールハウス以外に、その他の作物を作るための畑を45aまで拡大したという川畑さん。ここからは川畑さんもサポートしつつ、季節野菜やミニトマト、青パパイヤの生産を増やしていく予定だ。目標は現在月30万円の売上(共選出荷のトマト以外)を月100万円まで伸ばすことだという。

「共選出荷で大玉トマトをしっかり安定して作り、その他の品目で別の販路を開拓したり、ブランド化したりというチャレンジが、今はとても面白いと感じています。畑で作った野菜は、地域の直売所やスーパーの地域野菜コーナーで販売するのですが、お客様が手に取っていく瞬間を見ることができたり、声をかけてもらったり、共選出荷とはまた別の喜びがあるなと感じました」

この経験から川畑さんは、“農家の醍醐味はゼロから自分の力で美味しい生産物を作り上げ、たくさんの人に食べてもらえることだ”と実感した。一方で、共選出荷においては、“チームでいいものを作る”ということに、大きなやりがいを感じている。

「共選出荷で本当にいいなと思うのは、農家同士のチーム感です。実は就農前は農家と言えば黙々と自分の畑で作業をする、というイメージだったのですが、実際は全く違っていました(笑)。先輩方の活躍のおかげもあって、僕が参入するときも、みなさん温かく迎えてくれて、困っていたら声をかけてくれる。本当に頼もしいチームのような感覚で一緒に生産に向き合うことができて、そのことがとてもうれしいです」

川畑さんは、お世話になったたくさんの先輩たちに貢献できるよう、ここからさらに、トマトの美味しさと収量を追求していきたいという。そして早くみんなから「頼りになる存在」として認められるようになりたいと意気込んだ。

また、その他にも実は川畑さんは、KAWABATA FARMのYouTubeチャンネルも開設している。このチャンネルをさらに発展させ、多くの新規就農者に向けたメッセージをどんどん配信していきたいという目標もあるのだとか。

発信し、挑戦する農家として、ユニークな光を放っている川畑さん。
今後は、共選出荷と独自出荷のハイブリット経営を軌道に乗せ、誰もが認める「憧れのトマト農家」になるために、さらなる挑戦が続いていきそうだ。

就農を考えている人へのメッセージ

農家にはいろいろな人がいて、そのつながりがとても温かく、頼りになります。ぜひ地域に馴染む努力をし、周囲の農家さんと一緒になって成長していける関係性を築いてください。
ちなみに僕は、周囲の農家仲間とついに3ピースバンドを結成しました。生産物は柿、エダマメ、トマト。いつか地域のお祭りなどで演奏できるよう、農家ロックの制作にもはげみたいと思います!