2024.02.05

固定種・在来種の有機栽培と
平飼い有精卵が看板商品。
農業で自分のベストな生き方を実現

中山建(はじめ)さん/自然農場 風天
農園所在地:宮城県柴田郡村田町
就農年数:12年目 2012年就農
生産:固定種・在来種の野菜を約100種類ほど有機栽培で生産

自分でつくって、届ける。一生続けられる仕事を求めて

杜の都・仙台の市街地から車で30分ほど南に下った山間にある村田町で、自然農場「風天(フーテン)」を営む中山建さん。2012年、仙台市内から移住と同時に就農し、固定種や在来種の野菜を約100種類以上、農薬や化学肥料を使わず有機栽培で生産しています。さらには、雄雌合わせて180羽ほど平飼いしている鶏の有精卵も自慢の逸品です。

就農前は仙台市内で、カラオケ店勤務、冷凍倉庫労働、WEB制作、印刷会社の営業と、さまざまな仕事を経験してきた中山さんは、なぜ農業の道へ進んだのでしょうか?  

「転職する先々で何度も同僚や先輩から『この仕事は悪い仕事じゃないけれど、一生やる仕事じゃないよね』という言葉を聞き、では、逆に一生続けられる仕事って何だろう?と考えるようになりました。父方の祖父が農家だったことを思い出し、農業は定年もないし一生できるなと。同時に営業職を経験する中で、『自分で作り出した商品やサービスを売りたい』と思うようになり、それを叶えるためには自営業をやるしかないと、就農を決意しました」

その時はまだサラリーマンだった中山さんが、結婚を目前に控えた妻に決意を告げたところ、意外にも「やったらいいさ!」と背中を押され、2008年から就農へ向けて行動を開始。当時は新規就農に関する情報も体系立ててまとめられていない中、中山さんはインターネットや書籍を研究して自分なりに整理(※)しつつ、自分が目指す無農薬・有機・少量多品種栽培で営農している先輩農家を見つけ、宮城県の農業振興公社に相談して研修の段取りをつけてもらったそうです。

※「新規就農覚え書き」として中山さんの公式サイトに現在も記載)

農地と新居の入手がほぼ同時。地域のハードルを超えて

就農と同時に移住も考えていた中山さんは、2010年末〜2011年にかけての研修期間に、新居と農地を同時進行で探しました。

「なぜか、就農と移住はセットだと思い込んでいて(笑)。当時は空き家も農地も借りるための明確なルートがなかったので、自分の経歴や家を探していることを書いた自作のチラシを地域の農業委員会の集まりに持って行き、農業委員や区長さんから地域に配布していただきました」

空き家も耕作放棄地もたくさんあるのに、「どんな人なら貸してくれるのか?」という心理的ハードルを超えるのに苦労したという中山さん。しかし、最終的には地域の人々の信頼を得て、家も農地も無事に借りることができ、研修期間終了後の2012年から自然農場「風天」として独立就農を果たしました。準備した資金は、サラリーマン時代と研修期間中のアルバイトで貯めた約300万円と、借入をした350万円。農業の中でも米、畜産、花農家などと比べると野菜農家は初期投資が少なくて済み、就農2年目には黒字化、5年目からは安定して経営できるようになったといいます。

固定種・在来種と有精卵を生産。人とは違うことをする

中山さんの農場は7反(約70アール)からスタートしましたが、地域との関係ができると年を追うごとに農地が集まってきて、今ではその2倍以上の1町5反ほどの面積になっています。その農場をいまだほぼ一人で、年間約100種類もの固定種・在来種の野菜を、農薬も化学肥料も使わずに栽培するという「手間のかかる農業の極み」のようなスタイルで切り盛りしている中山さんに、その理由を尋ねました。

「私は後から農業に参入しているので、一般的な農業の市場はレッドオーシャンです。ビジネスとしてニッチを狙うなら、農業従事者の中でも取り組む人が少ない有機農業、さらにその中でも固定種・在来種に絞って栽培している農家となると、東北地区ではほぼいません。私は親からも“人と違うことをしなさい”と言われて育ってきていますし、少量多品種の栽培は経営のリスクヘッジにもなります」

固定種・在来種の野菜は風土に合っており、病気などにも強い。現代の野菜にはない味や風味を持つものが多く、昔の文献などを研究して育て方や食べ方を発掘するのも楽しみだとか。

中山さんの農場では、雄雌混合の平飼いの鶏約180羽から採取される有精卵も扱っており、探し求めていたお客様がこの卵から新規顧客になることもよくあります。

「これもなぜか、新規就農者は有精卵を一緒にやるのが普通だという思い込みがあったんです(笑)。有精卵と無精卵の味の違いは人間にはほとんど分からないのですが、雄雌一緒にいる方が群れが落ち着いたり、万が一、外敵が来ても雄が闘ってくれたりするんです。生き物としても自然な感じがしますよね」

そう話す中山さんは、小さい頃から生き物が好きで、鶏以外に2羽のウサギと2頭のヤギ、1匹の犬と共に暮らしています。農作業中に出会うてんとう虫やクマンバチに、命への愛情を実感する瞬間も多いそう。

作物はすべて直販。喜びが苦労を上回る

気候変動の影響で、気温上昇や長雨などの異常気象や、イノシシやシカの獣害に悩むこともありますが、それを上回る喜びが農業にはあると中山さんは言います。

「なかなか上手につくれなかった作物がうまくできたり、食べてくれたお客様に『おいしい』と言っていただけると、やはりうれしいですね」

こうしてできた野菜は、サブスクリプション型の直接販売や、飲食店との直接取引で出荷しています。今は生産が忙しく、中山さんが直接飲食店へ出向くことはあまりなくなりましたが、農家になったばかりの頃は販路開拓のために、仙台市内のシェフを訪ねて営業していました。

「自分でつくった野菜だから、自分がいちばんよく知っていて良さをお伝えできます。飲食店の方は基本的に食べ物に関心があるから、ちゃんと話を聞いてもらえることが多く、農家の営業はなんて楽しいんだ!と思いました。関係が希薄にならないよう、今後は飲食店とのコラボイベントなども開いていきたいですね」

就農して自分自身の生き方に満足できるようになった

中山さんに、就農前と就農後で感じているご自身の変化を伺ってみました。

「会社勤めをしている頃は休日が待ち遠しかった。今は自分がやりたくてやっているので、しんどい時もありますが、やめようと思ったことはありません。サラリーマンの時は自分より豊かな人間が多いように感じていましたが、今は私にはこの生き方がベストだと思えるので、他人を妬むことがなくなりました」

 「農家になって何より良いのは、やはり“自由”であるということ。休むのも、働くのも、どんな作物をつくるのも自由。誰にも与しないで自分の道を行き、万事自分の裁量で仕事を進められる。この『不羈独立(ふきどくりつ)』の心が、私にとっては農業のいちばんの魅力だと思います」

今後はマルシェ出店や、農場でのイベントも

今後は、近年忙しくて出られなかったマルシェにまた出店したいと中山さん。

「本当はロバを飼って荷車を引かせて出店したいのですが、妻にはこれ以上生き物は増やさないでと言われています(笑)」

直接お客さんと触れ合えるのも農業の醍醐味。いずれは、買い取った耕作放棄地の山林を開拓して果樹園もつくり、オープンキャンパスならぬオープンファームのイベントも開催したいと考えています。

中山さんの農場には「風天」という屋号が付けられています。これは、映画『男はつらいよ』の主人公「フーテンの寅さん」にちなんだもので、「寅さんのように大らかな、のびのびした野菜を育てたい」という願いが込められています。中山さんが農業の世界に飛び込むことで掴んだ「自由で自分らしい生き方」は、まさに映画の中の寅次郎の姿と重なるものがあります。

就農を考えている人へのメッセージ

「私は新規就農の相談も受けているので、“独立就農は起業である”ことを必ず伝えています。農業を始めるなら、ある程度のビジョンは必要です。自分で事業を始めるのに、何を生産するかも決められないというのは問題です。農業は肉体的にも精神的にも大変なことが多く、農家なら誰でもできるだろうといった思考で始めるとすぐに挫折してしまうでしょう。安定性や老後の安心がほしいならサラリーマンの方が向いているかもしれません。それでも農業に情熱を持って挑戦したいという人を応援しています」