2023.07.05

週末農業からミカン農家へ。
離農ハウスや畑を借り受け
弟と共に規模を拡大

岡本和也さん
農園所在地:大分県杵築市
就農年数:3年目 2020年就農
生産:ハウスミカン、デコポン、ハウスミカン苗など

週末農業で作物をつくる喜びを知って

岡本和也さんは、社会人になっていくつかの仕事を経験した後、28歳の時、生まれ育った大分県杵築市でハウスミカンを主力とするミカン農家として独立した。

元々、祖父母がイチゴや花をつくる農家を営んでいたこともあり、農業は幼い頃から身近で、会社勤めをしていた間も週末は畑で両親と共に野菜をつくり、地元のスーパーに卸していたそうだ。

「週末農業をしていた2、3年の間に、農業の良さを知りました。できた野菜を『おいしい!』と言ってもらえる喜び。やったことがダイレクトに対価として返ってくるのも、食べた人から『来年もまたつくって』と言われるのも本当にうれしかったです」と岡本さんは語る。

 岡本さんはいつしか本気で農業をやろうと考えるようになり、祖母や母親、周りの新規就農者やベテラン農家に話を聞いて、作業内容や収入面も鑑み、ミカン農家に興味を持った。大分県および杵築市内では高齢化によるミカン農家の離農も課題となっており、離農者のハウスや畑を賃貸する形で引き継いで新規就農できる仕組みがあるのも心強かった。ミカンは新しい木を植えるところから始めると、実がなるまでに4〜5年はかかる。その点で、離農者のハウスや畑を継承して新規就農すれば1年目から収穫でき、売り上げをつくることができるし、初期投資も抑えられる。同時に耕作放棄による農地の荒廃や、産地としての生産力の低下を防ぐことができるため、就農者にとっても、地域にとってもメリットが大きいのだ。

岡本さんは2018年からの2年間、杵築市が行なっている「ファーマーズスクール」に通い始めた。昔からよく知っている近所のベテランのミカン農家が大分県の柑橘研究会の会長でもあり、スクールの就農コーチもしており、そこでハウスミカンを中心とする柑橘類の栽培方法を、作業を通して習得。研修期間が終わると同時に、市内の離農した方のハウスとミカンの木を受け継ぎ、2020年、農家としてのスタートを切った。

最盛期は睡眠不足。でも、それを超える楽しさがある

ミカンの栽培方法は、屋外の露路栽培に加え、暖房で加温しながら育てるハウス栽培、屋根だけを掛けて加温はしないが露路よりも暖かい環境で栽培できる屋根掛け栽培などがある。露地ミカンの収穫は秋〜冬、ハウスミカンは春〜夏に行うため、これらの栽培方法を組み合わせて1年を通じて柑橘類を生産・出荷する農家も多い。岡本さんは、40アールのハウスミカンと20アールの屋根掛けデコポンを栽培し、それ以外に46アールのハウス内でミカンの苗木を育成中だ。

ミカン農家の大変さや苦労を伺ってみると、
「ファーマーズスクールで研修に入ってすぐ、コーチの農家に『ハウスミカンは“水商売”だ』と言われたんです。そのくらい水やりの塩梅が難しく、水で味が決まると言っても過言ではないと思います」と話してくれた。

岡本さんのハウスでは主に地面付近に設置されている灌水パイプと、上部からのスプリンクラーで水やりを行う。それに加えて、木1本1本の状態や個性に合わせた水の管理が重要だという。

「ミカンは1年に1回しか採れないので、出来栄えに直接影響する水やりには気を使います。あとは収穫の最盛期はとても忙しいので、睡眠時間が削られることがありますね」

ハウスミカンの収穫は4月〜9月半ばが最盛期。その時期は、朝涼しいうちに作業を始めるため6時頃にはハウスに入り、夕方の6時、7時頃まで収穫する。その後はミカンの選別が待っている。大きさごとに選り分けてコンテナに詰め、JAへ出荷する。採れる量が多い時期は、当然作業は深夜にまで及ぶ。岡本さんの圃場では年間20〜24トンほどのミカンを収穫・出荷しているが、全てが人の手作業だ。

「ベテランの農家さんに言わせると、僕なんかまだまだ作業の手が遅いんです。自営ですから休もうと思えば休めますが、特に収穫の時期は気になって、ついハウスに行ってしまうんですよね」

就農3年目になる今年は、「ようやく自分自身が納得できるものができた」と岡本さん。昨年までは、自分が良いと思える見た目や味のミカンが、全収穫量の半分ほどしかできていなかったが、今年は自信を持って良いと言えるミカンが9割近く収穫できている。県内でもトップ5に数えられるミカンづくりの名人だったハウスの貸主からも褒められるほど、素晴らしい出来栄えとなった。

兄の背中を見て弟も参入。味にこだわり積極拡大

「今年は1本1本の木により丁寧に接して、手作業で水をやったり、水を切る期間を見極めたりしていたので、それが良い結果につながったと思います。出荷できる良質なミカンがたくさん採れれば、それだけ収入も上がりますから、やりがいになりますよね」

大変な面はあっても、それを超える楽しさや成果を感じながら仕事をする岡本さんの姿を見て、それまで会社勤めをしていた弟さんも今年から加わり、一緒にミカン農家を営んでいくことになった。そのため、今年からはハウス栽培に加え、市内の離農されたミカン山を借りて露路栽培も開始した。現在は岡本兄弟と両親、母親の友人の5人で切り盛りしているが、来年には法人化も視野に入れ、今後も積極的に規模を拡大していきたい考えだ。就農時には、暖房費等の初期費用と生活費を賄うために農水省の青年就農給付金を活用したが、5年間の給付期間終了後も独立採算でやっていける確かな手応えを感じている。

「弟と、『せっかくやるならしっかり儲けたいね』と話しているんです。2020年に始めて、面積を増やしていくにつれて売り上げも上がってきているので、これからも頑張りたいです」

そんな岡本さんに、今後も継続的に利益を上げ続けていくために重要なことは何かと聞いてみると、「味です」と即答。

「やはりおいしいミカンをつくると、リピーターがついてくれます。すごくうれしいことですし、“今年はあれをやったから良かったんだな”というふうに、栽培の工夫が実証される。直売所にも少し卸しているので、お客さんのリアルな声を聞けるのが励みになります。僕のつくったミカンが今年もほしいと言って取りに来てくれるお客さんもいます。こうした反応がダイレクトに分かるのも農業の良さですよね。そんなふうに、おいしいミカンをつくってリピーターが年を追うごとに増えていくと、安定にもつながるのではないでしょうか」

農業を始める前と今とでは、責任感が違うという岡本さん。結婚して家族のいる弟が参入してきたことで、良いミカンをつくってしっかり収益を上げ、給料を安定して出せるようにならなければと、さらに身が引き締まった。1年を通してミカンを栽培できる環境を生かし、今後はジュースなどの加工品にも挑戦したいと考えている。先人たちが大切に守り育てたミカンの木や栽培の知恵を受け継ぎ、兄弟で取り組む新たな世代のミカン栽培は、これからもたくさんの人に喜びを与え、力強く発展していきそうだ。

就農を考えている人へのメッセージ

「少しでも農業をやってみたいと思うなら、今すぐ取り組んだ方が良いと思います。やれば結果がついてくるのが農業です。どうしようかな、やろうかな、と悩んでいるのなら、すぐにでも飛び込んだ方が良い。もし失敗しても、やり直しはききます。果樹がダメだったら野菜をつくればいいし、アルバイトに行けば食い扶持ぐらいはなんとかなる。やった分だけ喜びがある農業に、ぜひ飛び込んでみてほしいと思います」