2024.01.18

青パパイアを、宮崎県を代表する生産品に。
元研究員が挑む、「食から健康を支える」農業の6次産業化

岩本脩成さん
農園所在地:宮崎県新富町
就農年数:5年目 2019年就農(青パパイアの栽培スタート)
生産:青パパイア(露地栽培)、青パパイア加工品

起業家育成講座で芽生えた「青パパイア事業」への思い

宮崎県のほぼ中央に位置する、海や川に囲まれた自然豊かな新富町。「南国宮崎」と呼ばれ、マンゴーやライチなど南国フルーツの生産も盛んなこの場所で、「パパイア王子」として活動しているのが岩本さんだ。

岩本さんが手掛けているのは青パパイアの生産、そしてそれを使ったシロップやお茶、ドレッシングなど加工品の開発・販売だ。
宮崎市出身で農業とは縁遠い家庭で育ち、大学進学とともに上京した岩本さん。幼いころに患った病気をきっかけに医療に興味を持ち、大学では再生医療を専攻。卒業後は化学メーカーに就職して研究員となり、iPS細胞などを用いた再生医療材料開発に取り組んだ。そんな岩本さんが、いったいどんなきっかけで青パパイアの生産をすることになったのだろうか。

「地元に貢献したいという思いもあり、東京で働き始めたときから、いつかは宮崎に帰ろうと思っていました。できれば自分が興味のある人の健康に関わる仕事をしたいと考え、ある時、ビジネスのヒントを得るために東京で開催されていた宮崎県の地域商社こゆ財団が開催する起業家育成講座に参加したんです。それがきっかけで一気にUターンして起業しようという思いが強くなりました」

講座の中で事業計画を立てる機会があり、岩本さんはそこで、青パパイアの生産と加工商品で地域創生を図る事業を発表した。宮崎県の他の地域イベントや展示会にも参加し、「宮崎は食に強みがある」と考えたうえで計画を練ったという。

「青パパイアを選んだのは、スーパーフードとして注目され始めていた栄養価の非常に高い作物だったから。さらに南国フルーツの生産が盛んな宮崎であれば、同じ南国フルーツである青パパイアも県を代表する特産物に育てることができるのでは、と考えました」

この講座で出会った宮崎県の人々のパワフルさに触発された岩本さんは、想定より早く会社を退職し、宮崎に戻ってこの事業を進めていくことを決めた。

「これまでは病気を治すための研究をしてきましたが、青パパイアの事業では、『食』というこれまでとは違う方向からのアプローチで、人の健康に関わることができる。それは私にとってとても魅力的でした。チャレンジするなら今だ! と半ば直感で動きましたね」

こうして、岩本さんと青パパイアの物語はスタートした。

青パパイアがないなら、自分で作ろう。
はからずして飛び込んだ、農業への道

2019年1月に宮崎に戻った岩本さんは、東京でつながったこゆ財団のある新富町で、地域おこし協力隊になった。そしていよいよ「青パパイア事業」に着手しようとした。しかし、そこで問題が発覚する。データ上では生産されているとされていた青パパイアが、そう多くは作られていなかったのだ。

そこで岩本さんは、「無いなら自分で作ろう」と一念発起。現地で一緒に生産をしてくれる農家を探し、自らも畑に出て農作業をすることにした。

「青パパイアで地域を盛り上げる事業を始めるつもりで帰郷したのですが、いつのまにか就農していましたね(笑)。初年度の2019年5月頃には青パパイアの木を定植し、夏には収穫。青パパイアの生産経験がある農家さんと一緒に約1年作業をさせていただき、1から青パパイアづくりを教えていただきました」

「農作業は想像よりも大変な仕事だった」と振り返る岩本さん。それでも丁寧な指導のもと栽培技術を身に付け、2年目からは別に土地を借りて、自分だけで青パパイアづくりに挑戦した。植えたのは約1000本の青パパイア。その世話をしつつ同時に加工品の開発も進めた。

「収穫など人手が必要な作業は地域おこし協力隊のメンバーに手伝ってもらい、青パパイアの生産は順調に進めることができました。加工品は普段の食卓に並べてもらえるものをと、お茶などの開発からスタート、カレーや漬物などに広げていきました」

加工品の生産はOEM(企業に委託して生産してもらうこと)方式を採用し、自らの足で信頼できる企業を訪問。営業をして生産パートナーになってもらった。しかし、順調に進み始めた青パパイア事業は新型コロナウイルス感染症の流行によって、行く手を阻まれることになる。

メディアの力で、新型コロナウイルスを乗り越えろ!

「青パパイアは少しずつスーパーフードとして認知されつつありました。でも、どうやって調理し、どんな料理に使うことができるのかをしっかり伝えていかなくては、販売数は増えません。だからこそ試食販売やイベントでのPR活動が必要なんです。2020年はコロナ禍でそれらが全て中止になってしまい、売れ残る青パパイアもたくさん出てしまいました」

そうした困難を乗り越えることができたのは、メディアの力があったからだと岩本さんは言う。そこの頃から少しずつ「研究職から農家になって青パパイアと関連商品を作っている青年がいる」と地元のメディアなどで取り上げられるようになったのだ。

「ちょっと珍しいことをやっているぞ、と取り上げてもらえたんですよ。PRや広報の経験はなかったので勉強し、自分でもSNSなども使って積極的に情報発信をしていきました。宮崎の民放2局にアプローチしたり、メディアの方が、こゆ財団さんへ取材に来られたときに一緒に情報を渡させていただいたり。地道にあらゆる方法を試してPRしました」

メディアに取り上げられたことで、青パパイアの認知度は上がっていった。それに伴い、青パパイアの売上も少しずつ上向いていく。さらに思わぬ効果もあった。「私も青パパイアを作ってみたい」という仲間が続々と現れ始めたのだ。

新たな生産仲間を手に入れた岩本さんは、2021年頃、コロナ禍による規制が緩み始めたタイミングで、農作業からPRや販路開拓に比重をシフトして活動するようになった。青パパイアの生産は、仲間の青パパイア農家とパートナーシップを結んで任せ、自らは販路開拓や青パパイア市場拡大のための認知度UPに全国を奔走した。

「青パパイアが県を代表する特産品になって、地域を盛り上げ、食から皆さんの健康を守っていきたい。それが私の目標です。そのためには、まだまだ青パパイアを多くの人に知ってもらう必要がある。だからこそ青パパイアPRに注力しました」

時代がスーパーフードに注目。
全国行脚の地道なPR活動が実を結ぶ

時とともに、試食販売などのPR活動もできるようになり、岩本さんは展示会や百貨店の催事に出たり、東京新宿にある宮崎の物産館でイベントを開催したりとせわしなく活動した。2022年には年間60回のイベントに出演したという。

「回数を重ねるたびに、青パパイアのファンになってくださる方やリピーターが増えて、PR活動を続けていくことの重要さを痛感しました。コロナ禍を経て、多くの人が健康、免疫力について考えるようなったのも追い風になりました」

2022年には「食のトレンド予測 スーパーフードランキング TOP10」(一般社団法人日本スーパーフード協会発表)で、青パパイアが1位を獲得。野菜や果物の中で酵素を最も多く含む、『酵素の王様・メディカルフルーツ』青パパイア。酵素には、消化・代謝をアップして免疫力を高める働きがあるため、たくさんの人がその効果に注目をするようなったのだ。

こうした中、PR活動に奮闘する岩本さんのキーとなったのは、自ら立ち上げたブランド「パパイア王子」だ。

「ブランド自体は2020年にスタートしたのですが、私が『パパイア王子です』と名乗って挨拶をすると、インパクトがあるので覚えてもらいやすい。さまざまな場所でブランド名に助けてもらっていますね。覚えてもらい、青パパイアを試すきっかけになるなら、パパイアの被り物も被ってよかったです(笑)」

この「パパイア王子」というネーミングは、実はあだ名だったのだと言う。地域おこし協力隊として活動していたときに、こゆ財団の仲間たちが名付けたのだ。それが次第に定着し、そのインパクトとキャッチーさからブランド名に選ばれた。

「商品化や販路拡大のためのブランド化はとても重要です。ただ、ブランド名を決めただけでは広がっていかない。ブランドとして成立させていくために、どう発信していくか。ときには足を使って、労力を惜しまず地道に定着させていくことが必要だと実感しています」

青パパイア全国の食卓へ。そこから人々の健康を支えたい

青パパイアの生産をスタートしてから5年目となる2023年は、ここまで右肩あがりに成長してきた「パパイア王子」ブランドを見つめ直す1年だった。

「走り続けてきたこれまでを振り返り、生産量や開発した商品それぞれの売上、コストなど再度分析して、今後どう拡大をしていくかを考えました。それを踏まえて、来年からは注力商品を選定しての拡大、海外市場への挑戦などをしていきたいと考えています。また、新富町では青パパイアの観光農園を開くなどの計画を進めていきたいですね」

岩本さん自身は、これまでどおり、いくつかの青パパイア農家とパートナーシップを結んで生産を実施し、地域の企業と青パパイア関連商品を開発していく。そしてPRや販路拡大に力を注ぎ、さらなる青パパイアの知名度向上を目指す予定だ。

「目標に掲げているのは、県内にとどまらず全国で当たり前のように食卓に青パパイアが並ぶこと。今はまだ、ようやく10%くらい達成できたかな、というところです。どうやってこれを100%達成とするか、その方法を試行錯誤しながら活動していきたいと思っています」

「青パパイアで地域を盛り上げたい。食から人々の健康を支えていきたい」
そんな思いからスタートした岩本さんの農業、青パパイアの挑戦はまだまだ始まったばかり。岩本さん独自の農業6次産業化がどう成長していくのか。今後の展開に期待したい。

就農を考えている人へのメッセージ(Q&A)

農業の6次産業化を成功させるためには、事前リサーチが大事です。特に費用面においては、商品開発に使える補助金を調べることを忘れずに。何をどんな価格帯で作れば売れるマーケットがあるかをしっかり調べて取り組むことが重要です。私も6次産業化のための支援制度を利用しましたが、国や地域の制度を調べ、申請できるものがあればぜひ利用してください。

また、新しい生産品の販路開拓において、展示会に出て認知度を上げていくのは効果的です。私は飛び込み営業もしました。気になるところに電話をかけてアポイントをとり、会いに行って説明する。地道な営業もとても大事です。

私も新富町には誰一人知り合いがいませんでしたが、こゆ財団など、地域で活動している団体とつながりを持てたことが、とても助けになりました。尻込みせず、地域の団体、商工会や役場に出向き、さまざまな人とつながっていくことが大事。そこから情報や人脈を得て地域になじみ、その中で信頼を得ていけばうまくいくのではないでしょうか。

農業は、自分が食べるものを自分の手で作り出せるということがまず魅力的。それができる今の環境をとても幸せだと思っています。農作業は体力仕事なので大変ですが、収穫したものを仲間と一緒に食べて、「おいしいね」と言い合えることがとてもうれしいです。農業に携わるようになって、青パパイアを食べているので健康にもなることができました。