2024.03.21

新潟県への移住で果物の魅力を再発見
独自の手法でイチジク栽培に挑戦

堀川 紀子さん/ほんのり農園
農園所在地:新潟県新発田市
就農年数:3年目 2022年就農
生産:イチジク、トウモロコシ

学生時代から学んできた農業をなりわいに

一列に並んだコンテナから支柱に沿ってまっすぐと伸びる枝、時折吹く潮風が青々と茂る葉を揺らす。葉のすき間からはしずくのような形をした果実が顔をのぞかせる。新潟県新発田市で農業を営む堀川紀子さんは、露地コンテナ栽培というユニークな手法でイチジクを栽培している。新潟県が開発した水稲育苗ハウスを活用したイチジクの養液コンテナ栽培を応用したもので、作物の成長が速く、挿し木したその年から収穫できるメリットがある。また、地植えに比べて管理がしやすく、比較的作業の負担が少ないのも特徴だ。堀川さんはこれを多額の建設費用を必要とするビニールハウスではなく、露地で行うことでコストを抑えられると考えた。

堀川さんは埼玉県の出身。実家の近くには田んぼや畑があり、子どもの頃から農業を身近に感じていた。中学生の時から土に興味を持ち、大学院では農学を研究。学生時代は田んぼや畑に出向いて研究を行い、農家とも接するなど農業の現場に触れていた。就農の道も考えたが、農家の生まれでない自分が農業を仕事にするにはハードルが高いと感じ、卒業後は有機栽培の普及に取り組むNPO法人に就職した。

「結婚を機に新潟県に移り住んで、3人の子どもを育てながら保育士として働いていました。仕事はとても忙しく、もっと家族との時間をつくりたいと感じていました。ずっと農業の勉強をしてきましたが、この年になって就農を決めたのは、農業は健康なかぎり続けられる仕事で、自分で時間を管理して働けると思ったからです。また、新潟県に来てさまざまな果物と出合い、そのおいしさに感動したことも理由の一つです。私が新規就農の道を選んだことに家族も応援してくれています」

初期投資の少ないイチジク栽培に可能性を見出す

堀川さんが借りている農地は、自宅から車で10分ほどのところにある。敷地面積18アールの内、10アールでイチジクを栽培し、昨年から2アールでトウモロコシも育てている。イチジクは西アジア原産の果物だが、適応能力の高い作物で冬の寒さの厳しい新潟県でも昔から作られている。栽培は3月の育苗に始まり、8月下旬から11月上旬にかけて収穫。雪の降る11月下旬から2月下旬は農閑期となる。  

栽培しているのは、桝井ドーフィン、バナーネ、ビオレソリエス、ブリジャソットグリース、蓬莱柿(ほうらいし)の5品種。異なる品種を植える理由は、収穫時期をずらすことで作業の負担を分散するためだ。また、お客さまに品種ごとの味の違いを楽しんでほしいという思いもある。出荷先は、主に農協の市場や道の駅などの直売所。チラシやホームページを自作し、それを見て畑にイチジクを買い求めにきた方への直接販売も行う。

堀川さんが栽培品目にイチジクを選んだのにはいくつかの理由がある。以前勤めた農業法人では米作りを経験したが、稲作は高額な初期投資が必要で収益性は高くない。米に比べて果樹は収益性が高く、その中でもイチジクは比較的初期投資が少なく市場価格も安定している。イチゴなどに比べれば生産者は少なく、挑戦する価値があると考えた。就農するにあたっては、入念な準備を行った。まずは情報収集。新発田市役所の農林水産課や新潟県の振興局に出向いて担当職員に相談。そこで女性の先輩農家を紹介してもらい、家事との両立や農業経営などについて話を聞いた。次に、果樹栽培の技術を身に付けるために、市から紹介してもらった果樹野菜農家で研修を受けることに。研修は国が支援する農の雇用事業を利用して、2年間の実践経験を積んだ。

「研修は月曜から土曜までの週6日の出勤で、主に果樹の栽培管理や販売の仕方などを学びました。直売所を運営している農園だったので、いつどんな人が何を購入しているのか、商品が売れていく動向を意識して観察していました。また、自分が就農した時のことを考えて広くアンテナを張り、他の農家さんとの関係を築けるよう積極的にコミュニケーションを取りました」

作物を商品として売る難しさ、人に喜ばれるうれしさ

2021年4月から就農に向けての準備が始まった。農家や市や県の職員からアドバイスを受けながら就農計画を立て、12月に研修先の農園を退職。翌年1月に市の農業委員会からの紹介で農地を借り、3月には認定新規就農者に認められた。その間に、イチジクの苗作りを始め、電気や潅水などの設備工事を進めて栽培環境を整備。できることは自分で行い、コンテナ台の多くは堀川さんが自作した。計画的に作付けし、その年の8月下旬には無事収穫することができた。就農にあたっては、機械や施設にかかる費用の補助が受けられる新発田市新規就農者定着促進事業や就農者が無利子の融資を受けられる青年等就農資金などを活用した。

大学時代からの農業の知識を土台に入念な準備のもとで新規就農した堀川さんだったが、実際に自身で農業を始めてみて感じる難しさもあるという。

「準備には時間をかけましたが、全てが就農計画通りにいったわけではありません。当初は小さなビニールハウスを建ててアスパラガスも作る予定でしたが、資材の高騰などで一旦栽培を見送りました。また、栽培についてはある程度の経験はあるものの取引は未知の領域で、作物を商品として売ることの難しさを感じました。そこで、農業経営のセミナーを受講し、マーケティングや販促の仕方などを学びました。経営に役立つ知識を身に付けられただけでなく、他の農家と知り合えたことも収穫でした」

農閑期の収入をどう得るかなど課題もあるが、好きな農業をなりわいにしていることに堀川さんは充実感を得ている。そして、イチジクを食べた人に喜んでもらえることが、なによりのやりがいだ。今後は、誰でもできる栽培技術を確立して、地域ともつながりながら環境に配慮した農業を目指していきたいと堀川さんは話す。今年で就農3年目、堀川さんの挑戦はまだ始まったばかりだ。

就農を考えている人へのメッセージ

「農業を続けていくには、目標を持って時間がかかっても遂げてみせるという強い気持ちが必要です。体力的にハードな部分もありますが、やり方はいろいろあります。『これならできる』『こんな農業をしたい』と思える自分に合った農業の形を見つけてください。焦らずに目標に向かって進んでいきましょう」

 

「After 5 オンライン就農セミナー」にて、堀川さんをゲストに就農までの経緯やご自身の体験談を語っていただきました。その様子を下記の動画よりご視聴ください。