2024.03.29

人を喜ばせるおいしい果物を作りたい
夫婦で長野に移住し果樹農園を営む

関良祐さん、理恵さん/信州中野つどい農園
農園所在地:長野県中野市
就農年数:9年目 2016年就農
生産:ぶどう、りんご、プルーン

夫の夢を妻が後押し。農業とは無縁の人生から二人で果樹農家を目指す

果物畑が広がる長野県中野市。関良祐さん・理恵さん夫婦は2014年に東京から長野県に移り住み、2016年から果樹農家として新たな人生を歩み始めた。栽培品目はぶどう、りんご、プルーン。「お客さまが笑顔になるおいしい果物を作りたい」という思いを胸に、「信州中野つどい農園」と名づけた畑で果樹栽培に励み、就農9年目を迎えた。

関東出身の二人は、もともと農業とは無縁の生活を送っていた。ある時、野菜の収穫作業を手伝い、良祐さんは畑で育てた作物が人を喜ばせる力があることを実感した。その後、夫婦で援農ボランティアに参加し、畑を耕し収穫まで関わる経験をしたことで、良祐さんのなかに農業への本格的な関心が芽生えた。「定年後に農業をやりたい」というぼんやりとした考えが、「今すぐにでも農業に携わりたい」という強い意志へと変わった。

そんな夫の姿を傍らで見ていた理恵さん。果物が大好きな理恵さんは、良祐さんから農業に就く相談を受けた際、「おいしい果物を作るのであれば、私は応援する」と答えたそう。二人は果樹農家になることを決意し、就農説明会に参加したり、時には気になる地域に足を運んだりして情報収集を行い、就農への準備を進めていった。

農業大学校に通い、里親研修制度を利用して技術と知識を身につける

果物のなかでも特にぶどうの栽培に興味を持った二人は、就農支援体制が整っている長野県を就農地に選んだ。東京の会社を退職し、長野県小諸市にある農業大学校に入学。寮生活をしながら2年間にわたって知識や実践的な技術を学んだ。さらに、農業大学校の講義に加え、「就農前里親研修制度」を利用し、ベテラン農家のもとで経験を積んだ。

「中野市で里親登録をされていたぶどう農家さんのもとで研修を受けました。栽培技術だけでなく、経営についても多くのことを学びました。この方に出会っていなければ、独立就農は無理だったのではないかと思います」(良祐さん)

就農準備資金・経営開始資金を活用して経済的な基盤を確保したうえで、2016年に独立。約1ヘクタールの農地を借り受け、一部はぶどうの成園を借りることができた。しかし、面積の半分以上はぶどう、りんご、プルーン共に苗を植えるところから始めた。

お客さまに一番おいしい時期に食べてもらいたい

就農して9年目を迎え、農園は現在も夫婦二人三脚で切り盛りしている。収穫量とともに売り上げも伸びており、経営状態は良好だという。収穫量に限りはあるが、「おいしい果物を作ること」にこだわり、品種選びも栽培方針も、すべて自分たちの考えで決めていくことができる、それこそが農業経営の醍醐味だと語る。

「今年はぶどうを10種、りんごを7種、プルーンを6種、栽培しています。市場で人気のある品種以外にも、自分たちがおいしいと感じる品種や新しい品種にも挑戦しています。
良い結果が出れば素直に嬉しいですし、うまくいかなければ改善を重ねます。いろいろな栽培方法を試したり、興味がある品種に挑戦したりできるのが、農業経営の魅力です」(良祐さん)

「販売についても同じです。農協への出荷を増やすか、直販に絞るかなど、私たち自身の方針に基づいて戦略を立てられる自由があります」(理恵さん)

販売経路は、ホームページのオンラインストアでの直販が中心だ。夫婦二人で自信を持って届けられる量を栽培し、“一番おいしい時”に食べてもらえる時期に収穫し、配送している。また、年に4回、「農園だより」を郵送し、ブログやSNSも活用して情報発信にも力を入れている。

 コンクールでの受賞が大きなアピールに

二人が作ったブドウは、2019年に長野県シャインマスカットコンクールで最高賞を受賞。その実績が、その後の販売促進に大きく貢献した。

「お客さまがたくさんの果物のなかから選ぶ時、『おいしい果物を選びたい』『失敗したくない』という気持ちが働くと思うんです。コンクールでの受賞は果物の価値を伝え、選ぶ動機になっています。収益性の高い農業を続けていくためにも、これからもおいしい果物を作って、コンクールへの出品を続けていきたいと思います」(理恵さん)

 あたたかな地域の人に支えられながら、夫婦二人で歩む農業の道

農業と切り離せないのが、気象による影響だ。この2〜3年は、春の訪れが早くなったことで霜害が増えているのだとか。霜害を軽減するために、花の咲く時期が遅い品種や寒さに強い品種に切り替えるなど、試行錯誤を続けている。周囲の農家や里親農家とも情報交換をしながら、果樹栽培に日々向き合っている。

「困ったことがあった時は、隣の畑に行って相談することもありますし、道具や機材が必要な時には、里親農家さんにお借りすることもあります。中野市は農業が盛んな地域で、農協の技術員の方々も優秀です。何か聞けば的確なアドバイスをくださり、畑の様子を見に来てくださることも。地域のみなさんのおかげで農業を続けられています」

自然の中で働く楽しさ、たくさんの人を喜ばせることができるやりがい

「農業の大変さは覚悟をしていた通りだった」と語る二人だが、自然の中での作業を通して、思いがけない幸せな瞬間がたくさんあるという。

「就農して、生のカッコウの声を初めて聞いたり、キジを見かけたり、キツネなどの野生動物を見ることもあります。朝から畑に出て、鳥の声を聞きながら無心で作業をする時間はとても楽しいです」(理恵さん)

「畑に出ると、春夏秋冬の季節の移り変わりをダイレクトに感じることができます。畑から見える山々の美しさはたまりません。冬は雪が積もって白く、春になると雪が溶けて山肌が見え、夏は美しい緑に覆われ、秋は紅葉が見られます。そんな景色の変化を今も新鮮に感じています」(良祐さん)

二人が農業に情熱を注ぐ理由は、始めた当初から変わらず、「おいしい果物を作りたい」という一心だ。お客さまに笑顔と感動を届けるため、これからも二人らしい農業経営を貫いていく。

就農を考えている人へのメッセージ

良祐さんと理恵さんから、就農をするうえでの大切なこととして3つのアドバイスをいただいた。

「1つ目は、家族の理解を得ることです。私の両親は、農業の大変さや辛さを知っていたため、私たちの就農に反対でした。農業に対する考えや経営計画を説明したことで、最後は応援してくれるようになりました。やはり家族など身近な人の理解を得ながら準備していくことはとても大事だと思います」(良祐さん)

「結婚している人なら、配偶者の理解を得ることは絶対です。相談会や下見、研修に一人で行き、意思が固まったタイミングで『農業をやる』と伝える人がいると耳にします。そんなふうに伝えられたら、付いていくのは難しいと思うんです。私も早い段階から夫の農業への思いを聞き、説明会から同行して一緒に考えていくことができました。身近な家族である配偶者を説明会や体験会に巻き込んでいくことで、気持ちが動くかもしれません」(理恵さん)

「2つ目は、就農したい土地に行って畑での作業を体験してみることです。実際に足を運ぶと、その土地が自分に合っているのか、ここで生活していけるのかを確認ができます。できれば春夏秋冬、通うことをおすすめします」(良祐さん)

そして最後に挙がったのが人付き合いだ。

「作業は一人でできるものもありますが、農業は絶対に一人ではできません。例えば、畑を借りるにしても、周辺の農家の方に、その土地が自分が作りたい作物に適しているかどうかを確認してから判断した方が良いです。以前、紹介された土地について農家の方に尋ねたところ、『あそこはいいぶどうが採れないからやめた方がいい』と、これまでの経験を踏まえて教えてもらったことがあります。農業は予期せぬ事態が起こることも多く、時には周りの方々に協力を求めなければならないこともあります。地域の人や農家の方との関わりは大切に考えなければなりません」(理恵さん)