2024.03.28

移住して叶えた10年越しの農業の夢!
アニマルウェルフェアな養鶏と無農薬露地栽培を
淡路島の循環の中で実践

三崎咲さん/島ノ環ファーム
農園所在地:兵庫県洲本市
就農年数:5年目 2019年就農
生産:純国産鶏「岡崎おうはん」と青い卵を産む「岡崎アロウカナ」の鶏卵、葉玉ねぎ、新玉ねぎ、グリーンピース、加工用トマト、じゃがいも、生落花生などを無農薬で栽培

淡路島のつながりの中で有畜複合循環型農業を実践

東京生まれ、東京育ちの三崎咲さんが、夫の雄太さんと一緒に淡路島へ移住したのは2017年のこと。中山間地域の耕作放棄地を自ら開墾し、2019年から平飼いたまごの自然養鶏と無農薬野菜を栽培する農園「島ノ環ファーム」を運営している。

白い壁の前に立っている鳥たち

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今では200羽に増えた養鶏では、オリジナル配合の飼料の約8割に淡路島のものを使用している。米や米ぬか、菜種油のカス、島内のクラフトビール屋からいただく麦芽カス、うどん屋の出汁がらなど、食料自給率120%の淡路島はこうした副産物も豊富だ。この餌を食べ、平飼いでのびのびと育つ鶏たちが産む卵には、すでに多くの固定客が付いており、供給が追いつかないほど。農薬を使わず自家製鶏糞肥料で育てた三崎さんの葉玉ねぎや新玉ねぎは、関東地方のレストランをはじめ、島外の飲食店・青果店に出荷されている。

「ここはやりたいことを口に出したら、いろいろな人のご縁が巡って実現する島。『島ノ環ファーム』という農園の名前も、そんなことを感じていた研修中に決めました」と三崎さん。約10年越しで有畜複合型の農家になる夢を叶えた道のりと信念、淡路島で新たに見えてきた次なる挑戦について伺った。

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幼い頃から自然が好き。作物を育てる喜びを知り、農業大学へ

三崎さんが農業に出会ったきっかけは農業高校への入学だったが、それ以前に幼い頃から人工物に囲まれた東京での暮らしに違和感があったそう。

「祖母の代から東京に住んでいるので、田舎を知らない私は、物に溢れた便利な都会での生活に疑問を抱いていました。古代の人々が衣食住のすべてを自分たちの手でつくり出していたことを考えると、現代人は何か大切なものを失っているのではないか?と思うことがありました」

そんな三崎さんは、農業高校で自分が農業のことを何も知らないことに恥ずかしさを覚え、関東圏の自然農法を実践する農家に通い始めた。そこで作物を育てる喜びを知り、農業大学へ進学。卒業後は有畜複合農業を学ぶため、スイスへ渡った。

「国際農業者交流協会という団体が若手農業志望者を推薦し、欧州などで農業を学ぶ機会を提供する制度を設けているんです。スイスは四国ほどの小さな国土で、周囲を欧州の列強に囲まれ、自分たちの食糧や健康は自分たちで守るという意識が非常に高い国。家族経営が主体の小規模な有畜複合農業が基本で、日本でも活かせそうだと思いました」

スイスで学んだアニマルウェルフェアな畜産

三崎さんがスイスで最も強いインパクトを受けたのは、畜産におけるアニマルウェルフェアの意識の高さ。今から約13年前の当時で、スイスのスーパーに並ぶ卵は100%、平飼いの鶏のものばかり。動物が本来持つ本能を正しく理解し、それを餌の配合や飼育法に活かす畜産は、日本にも絶対に必要だと感じたという。

本来は1年間のスイス留学だったが、三崎さんは足に大怪我を負い、9ヶ月ほどで帰国。その療養中も農業に対するハングリー精神はますます強まるばかり。結婚後に雄太さんの仕事の都合で住んでいた大阪でも、「食と農に関わる仕事がしたい!」という思いから、野菜を多く扱う飲食店や青果店で働きながら「アグリイノベーション大学校」にも通い、理想の農業の形をふつふつと描き続けた。

 

夫の転機を機に淡路島へ移住して就農

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そしてついに、三崎さんが農業の実践へ向けて一歩を踏み出す機会が訪れる。雄太さんが東京へ転勤になった半年後、脱サラして夫婦二人で農業をやろうと決意。大阪暮らしですっかり好きになった関西圏に移住し、思い描いてきた農業を実現しようと、有楽町で開催されていた「ふるさと回帰フェア」に出向き、淡路島へ1泊2日のアテンド付きツアーに申し込んだ。以前から興味を持っていた自然農法の花岡農恵園や無農薬・無化学肥料栽培を行っている淡路島西洋野菜園の方々に直接会うことができ、淡路島への移住が現実味を増していった。

雄太さんが地域おこし協力隊として洲本市役所の農政課に3年間勤務できることが決まり、生計の目処が立った所で、ツアーから2ヶ月後の2017年1月に淡路島移住へ踏み切った。初めの3ヶ月間は移住体験施設に滞在しながら家を探し、ツアーでつながりのできた2つの農家と、40年ほど平飼い養鶏を行っている島外の農家で研修を受ける日々を送った。特に花岡農恵園の周辺では移住者も含むコミュニティが形成されており、先輩農家の隣の耕作放棄地を整備して自分たちの農業を始めることができた。

「農業が盛んな産地で自然栽培をするのはわりとハードルの高いことだと思います。周囲の農園に虫や病気が発生すれば、農薬を使っていない畑が発生源だと疑われがち。そんな中で花岡農恵園の周りには、ここで学んだ先輩農家も複数いるのでやりやすかったです」

独立資金は農業次世代人材投資資金を活用。三崎さんはその他、兵庫県の中山間地域直接支払い交付金、洲本市の獣害対策費や担い手づくり総合支援交付金なども活用した。

地域の農家から土地と家を継承し、農業を開始

そしてある日、自分たちの農園のすぐ近くの民家が空き家になることに。不動産屋に問い合わせるとすでに申し込みが入っており、三崎さんたちは5組目の希望者。ところが、その家に住んでいたのは三崎さんたちが借りていた農地の持ち主でもあり、農業をする人に受け継いでほしいとの意志から、三崎さんたちが入居できることになった。

「『まるでここに呼ばれたようだね』といろいろな人から言われました。新規就農で養鶏をするのもやはりハードルが高いんです。臭いや鳴き声、糞尿の影響を気にしないいけないのですが、幸運にもこの家は敷地がとても広く、私たちが思い描いていた農業を実現するのに最適な場所でした」

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循環型農業の生産ストーリーをSNSなどで発信

養鶏を始めるにあたっては、全国の平飼い養鶏家を訪ねて鶏舎や飼育方法を研究。イタチなどの侵入を防げる頑丈な鶏舎を大工さんの力を借りてつくり、30羽からスタートした。鶏舎の中には、地域団体「里山を守る会」から提供してもらった、島内の放置竹林から製造したチップを籾殻と共にフカフカに敷き詰めている。この竹チップは鶏舎に入れる前に野積みにして発酵させることで発酵熱が生まれ、鶏を保温したり、雛や夏野菜の苗を育てるための熱源として役立っているそう。

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養鶏と連動させた農業を志す三崎さんは、農地が粘土質であることも鑑み、作物を検討。稲作は鶏の餌にもなり、土質や鶏糞肥料との相性もいいが、米農家は設備投資の大きさと経営の難しさがあるため、主に玉ねぎを栽培することにした。

「玉ねぎをつくるならオーガニックでやろうと。前職の青果店で、オーガニック玉ねぎの需要が高いにも関わらず、市場にほとんど出回っていないことを知ったんです。やるからには、自分もワクワクするような野菜をつくりたくて」

ブロッコリーとニンジン

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現在、島ノ環ファームでは1月〜3月に葉玉ねぎ、3月〜4月に新玉ねぎとグリーンピース、5月にはイタリア原産のトロペアという玉ねぎ、夏は缶詰加工用のトマト、秋は生姜と生落花生、春と秋にじゃがいもなどを生産している。それに加えて卵は毎日採取。養鶏をやっている農家にとっては、卵は安定した収入源でありで野菜はボーナスのようなものだとか。

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「卵はとても需要があります。レストランやお菓子屋さん、個人向けの定期販売などに出していますが、お客様の大部分がリピーターです。鶏がどのように育てられたかを知ると、その卵を選びたくなるもの。野菜も含め、私が大事にしている生産背景のストーリーをSNSやブログ、トークイベントなどで伝えるようにしています」

農業の喜びと、過疎化していく地域の中で見えた新たな役割

「お客さまに『三崎さんがつくったものだから』と言って購入していただき、私たちがつくったものがいろいろな人の生活の中に溶け込んでいるのを見るのは大きな喜びです。鶏も野菜もよく成長して良いものができ、それを誰かに届けられた時がうれしいですね」と、三崎さんは自らの農業に邁進する日々の喜びを語る。その一方で、急激に進行する人口減少には強い危機感を抱いている。

フライパンの中の卵

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「農業を始める前は生産をメインに考えていましたが、農家にはそれだけではなく“土地を守る、景観を守る”という重要な役割もあると気づきました。私が耕している畑も、いつかの時代に先人が山を切り拓き、守り継がれてきた土地。川がない地域なので溜池があり、それも農家が守り続けなければなりません。しかし、高齢化により農家が減少していく中で管理が難しくなっています。溜池がなくなると農業もできなくなってしまう。この段々畑の集落で、地域が守ってきた農業を守り、次世代に残していくという役目も大事だと思っています」

三崎さんは、このような実態の発信にも力を注いでいる。また、車社会の淡路島で運動不足を気にしている仲間をLINEでつなぎ、「アグリジム」と称して農作業ボランティアを提案したり、近畿大学の学生との地域づくりプロジェクトや鶏を捌いて命の重みを知る「命をいただくワークショップ」などを実施したりして、関係人口の増加に取り組んでいる。

草の上を歩いている人たち

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三崎さんに今後の展望を尋ねると、経営面では卵の生産量を増やすこと、また、短期のインターン受け入れを検討しているとのこと。そして、アニマルウェルフェアを重視した畜産を実践する三崎さんには、こんな夢も。

「無類のロバ好きなので、近いうちにロバを飼いたいんです(笑)。ロバに引かせて卵や野菜を売り、地域のメインキャラクターにして、いろいろな人が来てくれる農園にしたいと思っています」

農業とのご縁が淡路島で結ばれ、つくり手としてだけでなく、地域の守り手として次世代に農業をつなごうとしている三崎さん。諦めず、自分らしく、そして楽しく活動する三崎さんの周りに、島の環はさらに広がっていきそうだ。

就農を考えている人へのメッセージ

「就農の動機は人それぞれですが、自分がどんな農業をしたいのか、明確なビジョンを持つことが大事だと思います。そして地域の特性を知ること。自分の知識だけではなく、地域に蓄積された独特の知恵や方法を学び、自分の農業に発展させることが重要だと思います」